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東京高等裁判所 昭和26年(ネ)2347号 判決

控訴人 申請人 高木勝

訴訟代理人 吉永多賀誠 外一名

被控訴人 被申請人 隅田建設工業株式会社

訴訟代理人 岩城重男 外一名

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は「原判決を取消す。被控訴人の請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の事実上の陳述はいずれも原判決事実摘示と同一であるからここにこれを引用する。

疏明として、被控訴代理人は甲第一ないし第四号証を提出し、乙第五号証の一、二、第十、十一号証の各成立を認め(但し同第五号証の一は原本の存在をも認める)、第二ないし第四号証、第六号証一、二、第十二号証の各成立は不知、その余の乙号各証の成立を否認する、と述べ、控訴代理人は乙第一ないし第四号証、第五、六号証の各一、二、第七ないし第十二号証(但し同第五号証の一は写)を提出し、甲第一号証の成立は不知、その余の甲号各証の成立を認める、と述べた。

理由

控訴人は訴訟上の抗弁として、本件は民事訴訟法第七百四十七条第二項の規定により本案訴訟を審理する裁判所(部)において裁判すべきものであるにかかわらず、異なつた裁判所(部)においてこれを審理裁判するのは違法である旨主張するによつて、まずこの点について按ずるに、同条第二項でいう本案の裁判所とは、必ずしも当該本案訴訟事件を担当する一人の裁判官または裁判官の合議体たる裁判所(仮に部と称す)に限定するものではなく、本案訴訟の係属する司法官庁たる裁判所を指称するものと解するのを相当とする。思うに本案の裁判所において仮処分取消事件の裁判をなすこととしたのは事案の内容に精通しているか、もしくは取寄等の手続を要せずして必要に応じて本案訴訟記録を顕出し仮処分取消事件の裁判の資料に供しうる便宜があるためであつて、必ずしも当該事件担当の部に限定しなければならない理由が認められないから右抗弁はこれを採用することができない。

よつて本案について審按するに、被控訴会社の昭和二十六年七月二十六日開催の臨時株主総会において取締役である控訴人を解任する旨の決議をなしたところ、控訴人は右株主総会招集の通知が法定期間を一日欠いたことを理由として東京地方裁判所に右株主総会決議取消の訴訟を提起するとともに、同裁判所に仮処分の申請をなし、同裁判所は同庁昭和二十六年(ヨ)第二九一九号職務執行妨害停止仮処分申請事件として審理し、同年八月三日「本案事件の判決確定に至るまで控訴人(債権者)は被控訴会社(債務者)の取締役としての職務を行うことができる」旨の仮処分決定をなしたことは当事者間に争がなく、甲第一、二号証によれば被控訴会社の同年九月十日の臨時株主総会が前記七月二十六日の株主総会の招集手続に瑕疵があつたことを認め、同株主総会の決議を取消し、さらに取締役である控訴人を解任する旨の決議をなしたことが一応認められる。

控訴人は右九月十日の株主総会の招集の通知には、前株主総会の決議取消に関する事項を会議の目的事項として記載していないから、同株主総会において同事項について決議をなしたのは違法であると主張するけれども、かりにかような違法があつたとしても、右は法定期間内に決議取消の訴をもつて主張すべきであつて、本件において抗弁として主張することができないから、右主張は採用することができない。

次に控訴人は被控訴会社代表取締役加藤俊一が同会社を代表して控訴人との間に、同会社が沖縄における米軍に対する土木建築工事請負事業継続中は同会社の取締役である控訴人を解任しないことの特約があるから、控訴人を解任する旨の右株主総会の決議は無効である旨主張するけれども、取締役の選任及び解任は商法の規定によつて株主総会の決議を必要とするいわゆる総会の専権事項であるから、取締役が株主総会における取締役の選任及び解任決議を制限するような行為をなしえないことはいうまでもない。そして商法第二百五十七条の規定によれば株主総会は何時でもその決議をもつて取締役を解任しうるのであつて、たとえ会社の代表的取締役が会社を代表して他の取締役との間にある一定期間取締役を解任しないことを特約したからといつて株主総会においてその取締役を解任する決議をすることは何ら差し支えないから、右主張もまたこれを採用することができない。

さらに控訴人は株主総会の決議の取消は訴によつてのみこれをなしうるのであつて株主総会の決議をもつてしてはこれを取消しえない旨主張するについて按ずるに、商法第二百四十七条第一項には株主総会の招集の手続または決議の方法が法令もしくは定款に違反した等の場合は株主または取締役は訴をもつて決議の取消を請求することができる旨規定しているが、これは第三者が株主総会の決議の効力を遡及的に消滅させようとする場合の規定であつて後の株主総会が先の株主総会の招集手続に瑕疵があつたことを発見して先の株主総会の決議を将来に向つて消滅させる決議をすることを禁止する趣旨をも包含しないものと解するのが相当である。そして株主総会の決議取消の訴が提起せられた後に、取締役がさらに株主総会を招集し、その総会において先の株主総会の決議を取消して前と同一事項について重ねて同一の決議をしたときは、後の決議は前の決議取消の宣言を受けることあるを予想してその場合に善処するために予備的になされたものと解しえられるから、もし前の決議が適法なものとして取消されなかつた場合は、後の決議はその効力を生じないか、もし前の決議が違法のものとして取消された場合は後の決議はその決議のあつた時から将来に向つてその効力を生ずるものというべきである。さすれば被控訴会社の前の株主総会においてなした取締役である控訴人を解任する旨の決議が判決によつて取消されなかつた場合は右と同趣旨の後の総会の決議はその効力を生じないが、もし前の決議が違法であるとして取消された場合においては後の決議はその決議のあつた時から将来に向つてその効力を生ずべき筋合であるから、いずれにしても控訴人は被控訴会社の取締役たることを解任せらるる結果となることが明らかである。したがつて東京地方裁判所がなした控訴人の取締役であることの仮の地位を定めて、控訴人が被控訴会社の取締役としての職務を行うことができる旨の前記仮処分は事情の変更があるものとしてこれを取消すべきものとする。

よつて原裁判所が右仮処分決定を取消したのは相当であつて本件控訴は理由がないからこれを棄却すべきものとし、民事訴訟法第三百八十四条、第九十五条、第八十九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長判事 柳川昌勝 判事 浜田宗四郎 判事 菅野次郎)

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